いい意味で予想を裏切られるほどの圧倒的な氷の世界でした。
巨大な氷の家がそびえ立つ!知床の「流氷フェス」で美しき氷の世界に迷い込んだ
・知床流氷フェスに出かけよう
・美しきアイス・バー
・落ち続けるチーズ
・シャボン玉はいつ凍る
・知床流氷フェスに出かけよう
てらちゃんが知床半島に到着した日の夜、違う宿に宿泊していたぼくたちは、知床の流氷フェスで合流することになっていた。ぼくは民宿たんぽぽという所に止まっていたのだが、流氷フェスはそこから歩いて5分ほどの国設知床野営場というところで開催されていた。
民宿たんぽぽの海鮮がふんだんに使われた美味しい夕食をご馳走になった後、ぼくは民宿たんぽぽで流氷フェスとはどんな感じなのか聞いてみた。流氷フェスは入場料が500円だが、それにはホットワインかココアが付いているということだった。それと可愛い知床のクマさんの缶バッジももらえるらしい。この知床のクマさんは知床の象徴としてあちらこちらで見かけて親しみがある。さらにその500円のチケットこの民宿でも購入できるという。民宿でチケットを買っていけば、流氷フェスの窓口で並ばなくていいので楽だろうということだった。
ぼくは、流氷フェスというものがそんなに長い間並ぶほど混雑しているものなのかと疑問に思ったが、地元の方のアドヴァイスに従いチケットを民宿で購入し、流氷フェスに向かった。この日の知床の夜の気温は-10℃。ぼくはtwitterで流れてきた、氷点下でシャボン玉が結晶を形作りながら凍っていく美しい様子を見たかったので、網走のセブンイレブンで買ったシャボン玉を携えて会場に向かった。
そしてやっぱりチケット会場は全然並んでいなかった。おそらく会場でチケットを買うことにしても全然問題ないだろう。しかし民宿でチケットをあらかじめ買っておいたおかげでスムーズに入場することができた。
・美しきアイス・バー
ぼくが流氷フェスに入場するとすでにてらちゃんは到着しており、感動の再開を果たした。ぼくが100日間のシベリア鉄道〜ヨーロッパ周遊の旅以来の久々の再開であり、そしててらちゃんもこれからもうすぐするとアフリカ縦断の旅に出かけるという。
流氷フェスはどんな感じのものかまったく予想もつかず、何か小規模な感じなのかと思っていたが、そのスケールの大きさに驚いた。なんと氷で宮殿のような建築物が建てられていたのである。これはおそらく流氷を積み重ねて作られたものだろう。先の旅でもノルウェーのアイスホテルというものに宿泊してみたかったが、値段が高いし遠いので諦めた経緯があるが、ここ冬の知床に来ればアイスホテルのような壮大な氷の建築に500円で入ることができるのだから感動的だ。
これまで旅をしてきて様々な建築物に触れてきた。それらは木材や、石や、土でできていたが、氷でできている建築に入るのは初めてである。こんなに長く旅をしてきても、初めて触れられるものがあるこの知床半島はやはり異次元の世界だ。流氷で建築物を作るなら、材料がゆらゆらロシアから自然に流れてきてとても便利そうに感じるが、それでも氷でこんなに大きな家を作るまでには大変な労力と知恵が必要なのだろう。
氷の大きな建築物は“アイス・バー”と言ってバーになっているらしい。中に入ってみると、氷の透き通るような透明感とイルミネーションの色彩が入り混じっており、まるで夢の世界にいるようだ。“アイス・バー”と言っても、バーの範囲は極小範囲であり、その他の箇所は普通に氷の建築物として歩き回って見学することができる。
氷の家の中というものは、鎌倉のように温かいものかと想像していたが、普通に外のように寒かったので防寒は必須だろう。めまぐるしいほどの数のつららが天井から伸びていたり、氷の柱がイルミネーションに輝いていたり、氷の階段をのぼってみたりと、本当にこれまでに見たこともないような美しい氷の世界だ。ぼくは失礼ながらもっと地味で質素なものを想像していたので、このような壮麗な氷の世界を堪能できて感動しきりだった。
注意したいのは氷の床がツルツルしている場所が何箇所かあり、滑って転んでいる人もいたので足元には十分気を使った方がいいだろう。お年寄りなどは頭など打たないように、滑りにくい靴を履くなど対策が必要であるように思われる。
流氷の建築の情緒を思う存分に味わった後、ぼくたちはホットワインをもらいに行った。
・落ち続けるチーズ
ぼくもてらちゃんもチケットに付いていた引換券でホットワインを頼み、てらちゃんは知床名物の鮭の干物(鮭トバ)を500円で頼んでいた。それを野外の焚き火で炙って食べるようだ。鮭トバを買うと鮭トバ3つに3つのチーズも付いてきたのでそれを炙りながら写真を撮った。こんな風に雪の中で何かを炙っている風景は珍しい、というか人生で初めてだ。
鮭トバとチーズを1つの串に刺して焚き木に向けて炙りながら順番に写真を撮った。するとなんと、ぼくが炙っている時に、火の中にチーズが”ボトッ”というまるで漫画みたいな鈍い音を立てて、チーズが火の海の中へ消えてしまった。
え…もしかして、チーズは炙ってはいけなかったのだろうか。よく考えれば、チーズフォンデュだってチーズを熱すればドロドロと液体に状態変化している。しかしたまたまかもしれない。たまたまチーズだけ炙りすぎたのかもしれない。
気を取直してもう一度鮭トバとチーズを突き刺して、今度はてらちゃんが串を炙った写真を撮っていると、再びチーズが”ボトッ”と火の海の中へと消えてしまった。…もうチーズはひとつしかない。ぼくたちは2個のチーズを犠牲にした上でチーズは炙るものじゃなかったんだとやっと悟り、大人しく鮭トバだけをよく熱して食べた。
・シャボン玉はいつ凍る
凍えるような氷点下10℃の雪の帰り道に、twitterで流れてきたように、美しい結晶を作りながらシャボン玉が凍るのか確かめたくて、ふたりでシャボン玉を開始した。本当にインターネットの動画のようにシャボン玉は凍るのだろうか。
しかし、シャボン玉を作れども作れどもすぐに割れてしまい、なかなか動画のように凍るには至らなかった。もしかして、コンビニの市販のシャボン玉では凍りつく前に割れてしまってダメなのだろうか。それとも氷点下10℃ではシャボン玉が凍りつくにはまだまだ暖かすぎるのだろうか。
次々に割れていくシャボン玉を作り続けたぼくたちは、雪の降る知床半島の真冬の夜道でただひたすらにシャボン玉をしている怪しい二人組となり、ようやくこの行為の虚しさに気づいたふたりはどちらともなくシャボン玉をしまって宿へと帰っていった。
後から調べたところによると、やはりシャボン玉は自分自身で洗濯糊なので作った割れにくいシャボン玉を使用すること、また完璧に凍るには氷点下15℃にまで至らないと、シャボン玉が美しい結晶を作って凍ることは難しいようだった。市販の割れやすいシャボン玉であり、しかも気温も条件に達していなかったぼくたちは、それ以降も氷点下15℃に見舞われることもなく、ただ虚しくシャボン玉の液を6本も携えて北海道の旅を続けていた。