ぼくは先日、プラハは早朝が最もよいと主張する記事を書いた。
世界最高に美しい夜景!夜のブダペストは黄金色に染まる
・プラハの詩的な光
・中欧の美しい街
・陰鬱な昼のブダペスト
・ブダとペストとドナウ川
・黄金へと染められる街
・黄金の国会議事堂
・黄金の美の移ろい
・プラハの詩的な光
プラハは早朝が最も趣深い。人々の少ない静寂が神秘的なプラハという街に似つかわしいし、また早朝の澄んだ冷たい空気がプラハの石畳と呼応し神聖な空気を作り上げる。カレル橋から見て東の千塔の街並みが影絵のように浮き出て来る風景は幻の蜃気楼の街並みを見ているようだ。その背景が澄明な淡い青色だからこそその街の暗く沈んだ透明感が伝わる。そして光が美しいのだ。プラハの早朝は詩的な光に満ちている。人生において、生きる上において、詩的な光以上に重要なものがあるだろうか。少なくともぼくの感性の上ではない。
・中欧の美しい街
プラハと同じく美しい中欧の街として名を馳せている場所がある。ハンガリーのブダペストという街だ。ぼくは今回ブダペストを人生で初めて訪れた。
中欧というのは魅力的な街にあふれている。プラハもウィーンもそれぞれに特徴を持った非常に味わい深い街で、何度だって訪れたくなる魅力を兼ね備えている。ぼくはプラハが世界で最も美しい街だとみなし人生で3度も訪れたのは以前の記事でも書いたが、最初にプラハを訪れた際にウィーンも同時に訪れた。
ウィーンはぼくの頭の中で描いていた「ヨーロッパ」そのものだったので非常に感動した。真っ白で美しい建築物が立ち並ぶ街並み、馬車の走る大通り、音楽的感性にあふれた芸術的な雰囲気は、ぼくが幼い頃から思い描いていた「ヨーロッパ」そのものだったのだ。ウィーンを訪れる前にドイツの様々な街を巡っていたが自分が「ヨーロッパ」だと思う風景にはなかなか巡り会えず、初のヨーロッパ旅行だったぼくはヨーロッパってこんな感じなのかなぁ、やっぱり思い描いてた理想とは違うのかなぁと若干残念に思っていたが、ウィーンで自分の理想のヨーロッパを見出すことができて非常に満足した。やはりさがせば「ヨーロッパ」はあるのだ。
そのようなプラハとウィーンと並ぶブダペストという街。否応にも期待が高まってしまうが仕方なかろう。
・陰鬱な昼のブダペスト
ポーランドのクラクフからバスでブダペストに到着した。バスステーションは街の中心からかなり離れているらしく、ぼくはグーグルマップを見ながら思い荷物を背負いつつえっちらおっちらと歩き出した。
歩いているとなんだか期待通りの感じではない。なにか街は暗くて薄汚れた感じがする。今までの旅路で見たこともなかったホームレスも頻繁に見かけるし、治安にも若干不安が残る。ぼくは最初にプラハを訪れたときのことを思い出した。あの時も華やかなウィーンからプラハに来るとなんだかちょっと陰鬱で怖い街だという第一印象を抱いたものだ。しかしこの街の方がプラハを最初に見た時よりも陰鬱な感じが漂ってる気配がする。本当にこの街は美しいのだろうかと訝しく思った。
・ブダとペストとドナウ川
ホテルについて荷物を下ろすと街の散策に出かけた。ブダペストは中心に行けば行くほど華やかに美しくなっていく街だった。今までに見たこともないような豪華な形の建築、今までに見たこともないような色彩の感性が街を彩り興味深かった。
街を散策していると自然とドナウ川にたどり着く。ブダペストはドナウ川を挟んで西のブダという地域と東のペストという地域にわかれている。栄えている街の中心は東のペストの方だという印象だ。ブダの方はペストから眺めるとゴツゴツした岩肌が目立ってなんだか野生的な感じが漂っている。あちらには温泉も湧き出ているらしい。ハンガリーは日本と同様温泉大国なのだそうだ。
川にはたくさんの橋が架けられている。最も有名なのは獅子の像が設置されている美しいセーチェーニ鎖橋だ。それを渡って行けばヨーロッパでも有数の美しい建築物であるというハンガリーの国会議事堂がある。ぼくはその姿をひとめ見ようと鎖橋を渡って国会議事堂へ行こうと歩き出した。
・黄金へと染められる街
ハンガリーはロシアやフィンランド、バルトの国々に比べればマシなものの17時には完全に日が沈み真っ暗になっている。ぼくは暗くなったブダペストの街を歩きながら国会議事堂へと向かった。国会議事堂はペスト側にある。鎖橋を渡ってブダ側にたどり着き、その岸辺から国会議事堂を眺めるのがよかろう。
夜になるとブダペストはまったく別の街のように変わっていた。やや薄汚れた印象の昼間の姿とは打って変わり、街中が黄金色のイルミネーションに包まれるのだ。そしてその美しい照明は鎖橋に関しても例外ではない。鎖橋も全体が黄金色に染められており美しい。ペスト側から眺めると、ドナウ川の向こうに黄金色の教会や丘の上の黄金のブダ城も見える。これを見られただけでもぼくの心は満たされていた。
ブダペストはその美しさの真価を夜になって発揮するのだなぁと薄々感じ始めていたが、それを決定づけるものは、黄金に燦然と光り輝くハンガリーの国会議事堂である。
・黄金の国会議事堂
夜のブダペストの黄金の国会議事堂は鎖橋を渡っている途中から徐々に見え始める。そしてその他のどの建築物とも違う圧倒的な美しさに誰もが目を釘付けにされるのだ。それでもやや距離があるので、早くあの国会議事堂の近くへとたどり着きたい一心で鎖橋を渡り終え、ブダの岸辺を北へ向かい進んだ。
徐々にその全貌が見え始める。近づけば近づくほどにその美しさはより一層の魅力をまとってこの心に迫ってくる。この圧倒的な構造の美、それに付随して立ち上がる似つかわしい黄金の輝き。これほどまでに黄金の輝きのふさわしい建築物がこの世にあるだろうか。ブダペストでは通りや城や教会などあらゆるものが黄金に輝くが、その集大成としてこの国会議事堂を見せつけられている思いだ。この国会議事堂を前にしては、その他の黄金のまといははるか霞んで見えてしまうほどである。街の黄金のまといにつられてドナウ川の水さえも黄金色に染められている。もやはこれまで見た中で最も美しい夜景と言っても過言ではないだろう。
この国会議事堂はどうしてこれほどまでに神秘的で美しいのだろう。天を鋭く貫かんばかりの美しい屋根の塔をはじめ全体の左右対称性が神聖さを醸し出している。自然界の中では、完全に対称なものは皆無だろう。自然界にはありえないものを荘厳と美をもって見せつけられることで、まるでこの世のものではないものを見ているような感覚に襲われる。しかもそれが黄金に光り輝き、その輝きをドナウ川の水がそのまま受け止めて同じ形に光輝いていることもさらに神秘性を表出することを助けている。
・黄金の美の移ろい
あまりに美しい夜のブダペスト、あまりに美しい国会議事堂をもう一度見たいと後日明るいうちからブダの岸辺を訪れた。この日は快晴で、淡い紫に染まる空が徐々に群青になりゆき、暗黒をまとうその前に、国会議事堂が輝きを放ち始める瞬間までを静かに眺めていた。移り変わる空の色。それと呼応して移り変わる国会議事堂の黄金の輝き。
絶対的な美を表現していると思われるものでさえ、時系列で見ると、その移り変わりの中にさえ情緒を見出すことができるのだなぁと、美しさというものの深さを知ったのだ。