平野の穏やかな水を憎んでいた
安らかな時を嘆いていた
もっともっと胸に迫り来る鼓動を
もっともっと差し迫る激流を
人間はいつしか安寧を求めて
山脈を退き平野に群がる
あらゆる都会は平野の中の砂漠
何もないこととすべてあることが同居する
平野の水は淀み 蚊が増え 人を喰らう
風は途絶え 病は増え 穢れは蔓延する
少しでも変わることに怯える人間の平安が
精神を腐敗させ蝕んでゆく
変わりゆけ 変わりゆけ 人の世の流れ
死や喪失をおそれるよりも その中へ飛び込み
生まれ変わるための循環の道をさがせ
常に清らかで新しい水であれ
紀伊山脈の深い森の中に隠された瀑布の激流が
錆びついた平安を根こそぎ押し流してゆく
まるで青い液体が世界へと解き放たれる速さで
硝子の中の古い美術品が砂になって落ちる