西表島からフェリーで石垣島まで戻ったその日の夜は、石垣離島ターミナルの近くの宿に泊まることにした。ぼくが石垣島で泊まるのは「ブルーキャビン石垣島」に決めている。最近よく見るキャビンタイプ(ドミトリーだがそれぞれのベッドは完全に壁で仕切られており、鍵はかからないもののカーテンを閉めることでプライバシーは保たれる)で清潔、スタッフの対応も親切だし、男性は大浴場が使えて快適である。
さて、夜の石垣島のホテルの中で、ぼくは非常に困っていた。明日から黒島へ行く予定なのに、宿をとっていなかったのである。
宿を取るといえば、最近ではじゃらんやBooking.com,Expediaのアプリで簡単に予約がとれるので、ぼくもその感覚でその日の夜まで過ごしてしまったのだった。しかし忘れていた。沖縄の離島の宿のほとんどは、それらのアプリを使って予約ができないのだ。
そう、沖縄の離島の民宿は、ひと昔前に人々が行なっていたように、電話で直接民宿に連絡して予約を入れないとならないのである。
なぜこのご時世になってアプリで予約ができないのかは定かではないが、おそらく時代の流れに無理に合わせなくてもいいだろうというのんびりした県民性が影響していることは否定できない。宿の予約アプリが当然のように使える普段の国内旅行と同様だと考えていると、ぼくのように直前になって困ることになるのだ。
しかし、この電話で直接予約を入れるという作業は昭和的でなかなか趣があり、そのような時代を生きていなかった者にとっても懐かしのワールドへと誘(いざな)われてしまうような力がある。
とにもかくにも、明日の黒島の宿をおさえなければならない。
かなり単純なことではあるが、ぼくがこの琉球諸島の旅で行なった、自分なりの沖縄の離島の民宿の予約の方法について以下に記載する。
電話でしか予約できない?!沖縄離島の民宿の予約方法を経験をもとに徹底解説
1.スマホなどで「○○島(行きたい島) 民宿」で検索
2.検索結果にその離島の民宿ランキングのページが出てくる
3.ランキング1〜3位の民宿を軽く調べ、(結局はめんどくさいので1位から)電話をかける
4.予約がとれたら終了、満員だったら第二候補、第三候補と予約できるまで電話をかけていく
5.予約完了
以上となる。順に見ていくと、1.2.4はまあそのままである。
3.ランキング1〜3位の民宿を軽く調べ、1位から電話をかける
これに関しては、1位の宿など大人気でとても直前で予約なんてとれないだろうと思われるかもしれないが、ぼくの経験上意外ととれるものである。運がよかっただけかもしれないが、気後れせずまずは電話してみるのが賢明である。
電話番号はそのホームページに載っていることが多く、スマホならば大抵はその番号を押すだけで電話がかかるようになっている。
インターネットを介さずに、このように電話で、肉声と肉声を交わしながら、お互いがお互いの様子をさぐりながら、変な人だと思われないようにやや気を使いつつコミュニケーションをとって宿の予約をする様子は、まさに現代社会には既に失われた風景のように思われ、その風景の中に自分自身がいることは、時間旅行をしているようで不思議な気持ちになる。
沖縄の離島旅は、その他の旅と同じく空間を旅するのみならず、時間の旅をもさせてくれるのである。
5.予約完了
予約を完了する際には、あちらから電話口で確認されるとは思うが、その離島の港への到着時間などをあらかじめ伝えておくと、大抵の宿ではその時間に港まで迎えに来てくれるので、旅が非常にスムーズになる。
大概はこの方法ですべてうまくいくのだ。
しかし、ぼくが明日の宿の予約を忘れていたのに気がついたのが、21時と夜遅くだった。それでも21時くらいならば一般的な生活を営んでいる人ならば起きているだろうと推測し、上記の順序で黒島の1位から順に電話をかけた。
1位、電話に出ない。
2位、電話に出ない。
3位、電話に出ない。
…離島の民宿のおじいたちはもう寝てしまったのだろうか。
ここまで電話に出ないなんて、もしかしたら黒島では早く寝なければならない島だけのオキテがあって、21時には全ての島民が眠っているのではないか、そうだとするともしかしたら大変迷惑な電話をかけているのではないかという思いにとらわれ、これ以上電話をかけるのをやめてしまった。
明日の朝に電話すればいい。一旦はそのように諦めかけていたが、それにしても早朝から黒島行きのフェリーに乗り込む予定なのに、朝から予約を入れるのでは心もとない。
朝から当日の予約なんてとれないかもれないし、もしかしたら朝もたくさん眠らなければならない島だけの決まりがあって、朝も誰も電話に出てくれなかったらどうしようなどと、全く根拠のない不安は募り、藁にもすがる思いでBooking.comの予約アプリで「kuroshima」と検索してみた。するとなんと黒島の民宿でBooking.comに登録しているところが1件だけあるではないか!しかも明日は空室あり!
ぼくは即座に予約して、安眠を得ることができた。
先ほどまでの苦労や不安も一瞬のうちに取り除かれ、ああなんて便利な世の中になったことだろうと、文明の利器の偉大さをひとり噛みしめていた。そして昔のスマホも何もない時代に、予約アプリやグーグルマップなどを使わずに世界一周していた人などは、一体どのように旅していたのだろう、きっとたいそう不便だったに違いない、けれどきっとその分たくさんの人と意思疎通しなければならずきっとだんだんと頼もしく成長したのだろうと、古えの旅人に思いを寄せながら眠りに就いた。