ぼくはウラジオストクからモスクワまで7日間シベリア鉄道の列車の中で過ごした。と言っても途中のイルクーツクで下車してその街に宿泊したので、詳細には3泊+4泊の列車の旅だった。
シベリア鉄道の持ち物で持ち込んでよかったものベスト3!
・未経験の7日間列車の旅
・食べ物はどうするの?
・お風呂はどうするの?
・乗車前にしておくべきこと
・シベリア鉄道に持ち込んでよかったものベスト3!
目次
・未経験の7日間列車の旅
7日間も列車に乗るなんてことは今までの人生で一度もなかったことである。しかも異国の地で言葉通じず、インターネット通じずの状況。何を持ち込み何を準備することが適切なのか見当もつかなかった。
しかし、実際に7日間乗ってみると徐々にその車内での過ごし方、本当に必要なもの、逆にいらないものなどがわかってくるものである。この貴重な経験をみなさんと共有することで、次にシベリア鉄道の旅に出る人々のお役に立てればこれ幸いと思う。
・食べ物はどうするの?
気がかりなのは食べ物である。ロシア人たちならおうちで何かおかずを持ち込んでタッパーに詰めてそれを食べるなどできるが、旅行者には困難だろう。
何よりカップラーメンが重要であると考え、ぼくは最初の3泊の予定のシベリア鉄道にカップラーメン1つ+袋状のインスタントラーメン6つを持ち込んだ。これで最初にカップラーメンを食べてそのカップを洗えばそれをお皿にインスタントラーメンを何回でも作れるという算段である。カップラーメンはインスタントラーメンより高価なのでカップラーメンを1つにすることによりお金の節約にもなるし、カップラーメンばかり買うと体積が非常に大きくなるので1つにすることで荷物がかさばるのを防げる。
また、カップラーメンばかりでは栄養が心配だと思い、ビタミンを摂取するために果物を持ち込んだ。皮ごと食べられる緑のブドウとみかんである。これで少なくとも3泊の列車の旅で餓死することはなさそうだ。ぼくは準備万端のつもりで臨んだが、さて実際はどうだっただろうか。
結論から言うと、そんなにインスタントラーメンはいらなかった。とにかく優しいロシア人がたくさん食べ物をくれるのだ。乗客も入れ替わったりして、その度に異国の地でひとり列車に乗っているぼくのことを気遣ってくださり、次々にさまざまなロシアの家庭的なおかずをいただきとても感動した。自分で作った豚肉の生ハムやゆでた鶏肉、ゆで卵や熟した柿を皮のまま食べることを経験するなど、ロシアのあたたかな家庭の味、異なる食べ方などに触れよい経験にもなった。特にお母さんとかおばあちゃんのような人が近くにいると食べ物をくれる率が高い。おそらく100%の確率だろうと思う。逆に兵隊や若い男性だとお喋りはしても食べ物をくれる確率は0%である。
3つくらいは消費したがまだたくさん余っていたインスタントラーメンはイルクーツクで降りる際に、まだこれからモスクワまでシベリア鉄道に4拍する予定の韓国人大学生にあげてしまった。とても喜んでくれたのでよかったと思う。ロシア人にたくさん与えられたので、ぼくも自然と与える気持ちを芽生えさせられたのかもしれない。ちなみに2等車だと簡易のフォークをくれるが、3等車ではくれない。持ち込んでもよいと思われるが、忘れても車掌さんが貸してくれるので問題ないだろう。
果物であるがぼくは食べやすい、日にちがもつ、捨てやすいというのを基準にこの2つを選んだのであるが、皮ごと食べられる緑のブドウは失敗だった。食べやすいのだが、すぐ腐るのだ。1日で液体がにじみ出てきてあまりもたなかった。皮ごと食べられる緑のブドウはやめておいた方がよかろう。逆にみかんは大正解である。みかんはぜひ何個でも持ち込んでよいだろう。そしてイルクーツクからモスクワにはバナナも持ち込んだが、バナナも非常にシベリア鉄道にはオススメの食べ物である。
ウラジオストクからイルクーツクのシベリア鉄道ですっかり勝手がわかり安心しきってしまったぼくは、次のイルクーツクからモスクワまでの4泊のシベリア鉄道へ乗り込む際に、うっかり食べ物を買い忘れてしまった。しかしその時もロシア人がたくさん食べ物をくれたので全然大丈夫だった。食べ物どころかお茶の葉まで大量にくださり、フィンランドにいる今もなおカバンの中に余りがある。
ぼくの生命はロシア人の慈悲の心によって生かされており、ぼくの旅はロシア人の慈悲によって継がれているのだ。感謝する以外の感情が浮かばない。
・お風呂はどうするの?
お風呂はない。シャワーもない。7日間我慢するのみである。車掌さんが貸してくれるという情報をどこかで見たが、少なくともぼくの車両ではそれは不可能だった。
ぼくは3泊+4泊だったからなんとか耐えられたが、それでも割ときつかった。トイレで髪を洗う人もいると言われるが、あのトイレで時間をかけて髪を洗うくらいならぼくはじっと我慢して時が過ぎるのを待つ方がめんどくさくないと思う。
・乗車前にしておくべきこと
乗車前にしておくべきことといえばやっぱりインターネット関係だろう。SIMカードを買って車内でも利用できるようにする人は必要ないだろうが、ぼくはそのようなことはしないので、事前に必要なデータのダウンロードを行なっていた。
まず、終着駅の周辺のGoogleマップの地図をオフラインでも表示可能になるようにダウンロードしておいた。また、車内はロシア人ばかりでもしもの時はロシア語の翻訳が必要だろうと思い、Google翻訳で日本語ロシア語をダウンロードしておいた。また暇な時に映画でも見られるように、動画をダウンロードしておいた。動画のダウンロードはさておき、前の2つは非常に役立ったので必須と言ってもいいだろう。
・シベリア鉄道に持ち込んでよかったものベスト3!
さて、シベリア鉄道に持ち込むものに関してであるが、実際に本当に必要なものはそんなに多くはない。予想できない鉄道内での生活に、あれもこれもと用心で準備してしまう気持ちもあるが、それをぐっと抑え、これは旅であることを思い出しなるべく身軽に済ませるのが賢明であると思われる。そんな中でも、ぼくが持ち込んでよかったと思ったものベスト3はこれである。
ベスト③!ロシア的な書物
インターネットが繋がらないとなれば、有意義に時間を過ごす方法として真っ先に挙げられるのは読書であろう。しかしそんなに多くの書物を持ち込んでも旅の荷物が重くなるのでふさわしくない。Kindleなどの電子書籍をタブレットにダウンロードしておくという手もあるが、充電がしにくい可能性もあり不適切な可能性もある(ぼくが2等車に乗った時は車両に2箇所しか充電差込口がなかった)。ぼくは以上のことを考え文庫本4冊を持ち込んだが、適切な量であったと思う。
その中でも、ドフトエフスキーやトルストイなどのロシア的な書物を読んでいると、ロシア人との交流を促進するためのよい媒介になった。ぼくの場合はトルストイの「人生論」の表紙にトルストイの顔が書かれていたので、ロシア人に知ってる?などと聞いて交流を図っていた。そして実際に100%の統計で、ロシア人はトルストイを知っていた。そして100%の確率で、トルストイの人生論は読んだことがないと返された。ロシア人には完全に知られているにも関わらずあまり読まれていない人物、それがトルストイのようである。
しかしこの「人生論」は非常に感動すべき本で、この本には幸福になるためにはもうただ“与える”しかないだと書かれていたのだが、実際にシベリア鉄道に乗り合わせた多くのロシア人が、ぼくに何の見返りを求めることなく多くを“与えて”くれるのを目の当たりにし、ああこのような広大な大地のもとでトルストイの言う通りの生き方は息づいているのだなあと、感動させられたものである。
ベスト②!島ぞうり
スリッパ的なものは必須であると言えよう。列車内で身軽に動くためには必要なアイテムである。2等車ならば使い捨てのような薄いスリッパも付いてくるが、自分でもう少ししっかりしたものを持ってくるのがよいと思われる。特にトイレの床が水で濡れていることがあるので、やはり底がきちんとあるサンダルを持参したい。
ぼくは宮古島で買った島ぞうりを持参したが、シベリア鉄道だからということはなく、もう旅全体において島ぞうりは必須アイテムだなあと実感している。宿でシャワーを浴びる時など非常に快適である。
ベスト①!魔法瓶の水筒
これはぼくが思いもよらないほど便利だったアイテムである。特に秋〜冬にかけてシベリア鉄道の旅をする人は必ず日本の魔法瓶の水筒を持参することをお勧めする。
ぼくはこの水色の魔法瓶の水筒、インドネシア横断の旅にも持って行ったのだが、その時はこれが要るやら要らないやらものすごく微妙なものであると見なし、もしかしたらこれ要らないんじゃないのとずっと思っていた。インドネシアでは水を入れるだけなので、それならば1度飲み干したペットボトルでも使っておけばよかったのだ。しかし、冬のロシア旅ではまったく違った。
まずウラジオストクの宿で、水筒を持ってきてよかったと確信した。ロシアは日本のようにお茶の大国であり、必ずと言っていいほどお茶の葉が無料で置いてある。そこでお湯を沸かし、水筒にお湯を注ぎ、お茶の葉を入れるとお茶をいつでも持ち運ぶことができるのだ。これはお茶好きの日本人にとって非常に心地よいシステムである。
そしてそのお茶の葉をちょっとだけもらってシベリア鉄道に持ち込む。車両にはでっかい給湯器が置いてあるのでお茶も作り放題飲み放題である。シベリア鉄道の中で、温かいお茶を無料でいつだって飲めるということは、日本人の心に平穏をもたらす非常によい作用をもたらす。
その先の旅でも、魔法瓶の水筒は大活躍である。冬のヨーロッパは極めて寒冷でありそのような季節の中、宿であたたかいお茶を作って携帯しておくと、外にいるときもいつだって身体をあたためることができる。また水などの飲み物を買う必要がないのでお金の節約にもなる。たとえ安い水であろうと長旅では“塵も積もれば”となり、大きなお金の出費になっていることは否定できない。水筒を使うことで上手に旅ができていると確信している。
この魔法瓶も島ぞうりと同様宮古島で購入したものである。宮古島で購入したものは偶然にも旅先で役立つなあ。そして魔法瓶の水筒がこんなに便利な存在だったということを知らなかった自分に対する驚きと、インドネシアの旅行の時は要らないもの扱いしてごめんねという謝罪の気持ちが込み上げてくるのであった。