この果てしない荒野はいつ終わるのだろう…。
スペイン巡礼14日目!未来を恐れて富を蓄える事と果てしないメセタの大地の道のり
・乾燥したメセタの大地の道は長い
・見えない未来のためにどれだけの所有を蓄えても
・自分で作る料理がいちばん美味しい
・スペイン巡礼14日目記録
・乾燥したメセタの大地の道は長い
メセタの大地に突入してから2日目!今日も6時半に出発して30km近い巡礼の道を歩く。
目的地はItero de La Vegaという小さな田舎町。ありがたいことにこの日は曇り空であり、影のないメセタの大地では巡礼者にとっては格好の気候である。スペイン巡礼で気持ちのよい快晴だと日光に体力を奪われるだけではなく、飲み水の消費量も格段に増加してしまう。メセタ以前の巡礼の道では、まだ村と村との間の距離が短かったからよかったものの、メセタに入ってからは村と村との間が10km以上離れていることも珍しくなく、途中で飲み水が切れてしまうと心にも体にもよくないので、やはり美しい晴天の日は危険だ。
メセタの大地に合わせて、2Lのペットボトル入りの水を購入することも考えたが、水を多くすればするほど、自らの重き荷はさらに重くなり、巡礼者を苦しめることになる。途中で水が切れないための保険として、水を大量に携えて行くか、必要最低限の水だけを持って自分の重き荷をなるべく軽減し、巡礼の道を歩きやすくするか、その帳尻を合わせることは容易ではない。本来ならば、ここから次の村までどれくらいの距離で道はどれほどの困難さだから、携える水の量はこれくらいがちょうどよく適切なのだとわかってしまえば苦労はないのだが、はじめてのスペイン巡礼の道ではそれを見積もることすら困難だ。どれだけの水の量を持っていけば自分にとって最もいいのか、それがスペイン巡礼における大きな課題である。
・見えない未来のためにどれだけの所有を蓄えても
思えばこれは、スペイン巡礼と水の関係にとどまらない問題かもしれない。ぼくたちは人生の中で、多くの所有物を蓄えては、まだ見ぬ不安な未来への保険としている。どれだけの量の価値やお金を蓄えればいいのかわからずに苦しんでしまうのは、未来がまったく予想がつかず見えないものだからだ。自分がいったい何歳まで生きるのか、何歳で病気になって不自由になり動けなくなるのか、何歳で災害や犯罪に遭って思いがけず蓄えを失ってしまうのか、それを教えてくれる人は誰もない。占い師だってせいぜい、いかようにも受け取れる暗示ばかりを言うばかりであてになるものではあるまい。
それゆえに人は、起きるべき最悪の自体を想定する。もしも100歳まで生きてもいいように、万が一重い病気になってもいいように、まさかの働けない事態になってもいいように、彼らは備え保険屋は儲かり、人は我慢強くささやかな人生と引き換えに、可能な限りの富を蓄える。
もしも67歳で死んでしまうことがあらかじめわかっていたならば、その人は67歳まで質素な生活をすることなく、ちょうど67歳で使い切れるようにと自分の好きなことにお金を大いに費やし、さらに幸福な人生を歩んでいたかもしれない。もしも50歳で重い病気にかかって思うように外出できなくなることがわかっていたならば、会社勤めなんか辞めてしまって50歳までに可能な限り外の世界を体験し、自分の思い通りに自由な時間をあてがったのかもしれない。もしも自分の人生に、いつなにが起こるのかわかっていたならば。もしも自分の人生に、必要な分のお金があらかじめ提示されたなら。
わからないという大きな不安に飲み込まれ、人は本来必要のなかった保険に大量のお金をつぎ込み、本当は必要のないほどの大量の富を蓄え、実際は必要のないほどの多くの時間を労働へとあてがう。しかしそれは何ものにも変えられない、自分だけに与えられた取り返しのつかない大切な生きる時間だ。
「もしものときのために。もしものときのために。」わからない不明な未来に心の焦点を当てれば、人の心は惑い、困惑し、絶望する。未来なんて見なければ、自らの奥底に眠る直感の炎の光だけが確かに見え、本来、自分がこの世に何のために生まれてきたのかを思い出せるかもしれないのに。
水を蓄えれば蓄えるほど、巡礼の道は重くなる。富を蓄えれば蓄えるほど、人の心は乾き果てる。蓄えれば蓄えるほど、嬉しかったはずなのに、自分の未来は安心と、心は満たされるはずなのに、なぜが逆に道を行く人の息は切れ、足元はふらつき、前さえ向いて歩けなくなる。矛盾するように、心は何か“蓄え”とは別の何かを渇望するようになる。保険をかけて未来へ向かい、おそるおそる怯えながら歩いてしまうような精神を、もういっそ死んでもよいと潔く歩いていけるほどの、清らかな心と取り替えることができたならば、あるいはこの先の巡礼の道さえ、かつて見たことのない朝の光に包まれよう。
おまえの重き荷はすべて、おまえの執着の証し。たとえそのすべてを手放そうとも、決しておそれることはない。手放した重き荷の分だけ、人から与えられる恵みの重さへと引き継がれよう。手放した先でその肉体がことごとく滅びようとも、決して嘆くことはない。重き荷を手放せるというその精神の光は、風となって大地に生き続けよう。
・自分で作る料理がいちばん美味しい
Itero de La VegaのアルベルゲPilgrims Hostelは5ユーロだった。キッチンもあってベッド数も12人と快適。やっぱり宿は少人数の方がいいな。ベッドは2段ベッドもなくて、すべて1段でこれもまた快適。
少人数で誰も使い人もおらず、ぼくたちは久々にキッチンを利用して野菜スープを作った。1.6ユーロで食材を買ってきて、ロシアで買ったコンソメスープを使って作る野菜スープは、今までの旅の中のどの料理よりもおいしいと感じた。やっぱり自分で作る料理が、いちばん安くていちばん美味しい。
・スペイン巡礼14日目記録
出発6時半 到着13時30分
消費カロリー896kcal 歩数41689歩
移動距離26.7km
健康状態:極めて良好問題なし