小海線に乗って人生初の山梨県へ!平山郁夫シルクロード美術館は旅人の心を激しく揺さぶった

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ぼくが平山郁夫という人の作品の初めて触れたのは、東京の友人のよっしー家においてである。有名な、ラクダが何頭も連なって砂漠を旅してゆく絵が、家の壁に飾られていたのである。心の中に旅愁を誘うような、なんとも印象深い作品だった。気になって調べてみると、彼は奈良県の薬師寺に縁の深い人だということで、薬師寺に設置された彼の作品を見に行ったり、彼自身の伝記の本もいくつか読み、さらに興味を抱いていった。

 

 

彼は絵描きであると同時に旅人であり、仏跡やその周辺の景色を求めて、何度もシルクロードの都市を旅しては絵をこしらえたようである。ぼくもシルクロードをめぐる旅をしたいと切望していたので、旅の参考に彼の美術館のようなものがあるなら是非訪れたいと思いたった。調べてみると、平山郁夫シルクロード美術館というのが山梨県にあるようだ。

山梨県…どうしてそのような行きにくそうなところにあるのだろうか。山梨県といえば、人生で一度も行ったこともなければ、行き方もよくわからない。大阪よりは東京からの方が行きやすそうではあるが、それ以上のことはわからない。しかも、東京からとても近くて行きやすいという感じではなさそうである。今回、能を鑑賞するために東京までやって来たが、そのついでに平山郁夫シルクロード美術館へちょっと寄って行こうかな、という気軽な感覚では行けそうにはない。その他に山梨県で何かしらの用事があれば行くかもしれないが、残念ながらそのような用事はまったく見当たらない。

もう行かなくてもいいかな…とぼんやり思いながらグーグルマップを眺めていたところ、なんと平山郁夫シルクロード美術館は長野県と山梨県の県境に存在し、ぼくの大学時代の長野県出身の友人のたけちゃんが住んでいる場所に比較的近いことが判明した。早速そのたけちゃんに連絡を取ってみたところ、もしぼくが行ったなら会えそうだということだったので、平山郁夫シルクロード美術館+長野県のたけちゃんに会うことを目的として、東京から甲信地方の小旅行に出かけた。

小海線に乗って人生初の山梨県へ!平山郁夫シルクロード美術館は旅人の心を激しく揺さぶった

・高原を走る列車(東京から山梨へ)
・来てよかった平山郁夫シルクロード美術館
・美しい高原の清流
・里へとくだる列車(山梨から長野へ)
・長野県の思い出

・高原を走る列車(東京から山梨へ)

まずは東京の新宿から山梨の小淵沢というところへ行くために、特急列車に乗り込んだ。その小淵沢から平山郁夫シルクロード美術館のある甲斐小泉という駅まで行くためには、小海線というワンマン列車の走る路線に乗り換えるようだ。この小海線は山梨県と長野県をつないでおり、たけちゃんがいる長野県の佐久という場所にも、この路線に乗っていれば着くという。ぼくが平山郁夫を知るきっかけとなった、平山郁夫の絵を飾っていた東京の友人のよっしーが言うには、この小海線はとてもいい路線だという。彼は鉄道マニアなので、日本全国の路線に非常に詳しいのだ。ぼくは鉄道に関してあまりよく知らないので、いい路線なんてあるのだろうか、そもそもいい路線って一体どういうことだろう…と訝しげな気持ちで鉄道の旅に出た。

新宿から小淵沢への特急列車は、まあ普通の特急列車という感じで、のんびり窓からの景色を眺めながら時を過ごした。天気も、空に入道雲がそびえ立つ初夏の陽気で心地がいい。2時間ほどで小淵沢に到着し、小海線の小さくて可愛らしい電車に乗り換えた。

なるほど小海線はいい路線である。一瞬でよっしーの言っていることが理解できた。ぼくは路線にいいも悪いも別にない、電車なんて所詮ただの乗り物なのだからこの肉体を目的地まで運んでくれればそれでいいのだと、軽薄な考えを抱いていたが、路線や電車にも美しく、過ごしやすく、心地よいものがあるということを、今回の旅でよく学んだのだった。

まず、電車の中が適切な人口密度である。人口密度と電車内の快適さとは、切っても切れない関係にあると言えよう。適度な人数の人々が乗車し、適度な自分自身のパーソナルスペースを保つことができる。しかもその人々の内容であるが、非常に穏やかでゆったりとした心持ちをしていることが感じられる。出勤している人や、急いでいる人がいないのだ。みんなお出かけに行くといった感じで、楽しそうに談笑したり、リラックスしている様子である。それを感じ取ることで、こちらの気持ちも共鳴するように心安らげる。

次に、景色が非常に美しい。初夏の季節の中で、少し涼しい爽やかな高原の中を列車は進んで行く。窓の外には太陽のやわらかな光と美しい新緑の木々の色彩が交錯し、自然と心に刻み込まれていく。新緑のトンネルをくぐるようにして、澄んだ空気の中を、冒険旅行するように鉄道の旅は続く。はるか彼方に望まれる高山の頂には、もう夏にさしかかるというのにまだ白雪が残っている。

最後に、鉄道員の仕事を見ていても興味深いものがあった。電車内の見回りをしたり、乗車券の確認をしたり、運賃箱にお金を入れる際の手伝いなど、都会の電車ではもはや見られなくなってしまったレトロな光景がそこにはあった。おそらく、都会では機械化してしまったものたちが、ここでは昔ながらの人間の仕事として残されているのだろう。現代も人間の仕事の機械化が懸念されているが、このように昔からずっと引き継がれて来た人間の仕事を見ることで、自分たちがどのような道を辿ってきたかを再考するきっかけになることは、人生において大きな示唆になるだろう。そのようなことを感じながら甲斐小泉へと到着した。

 

・来てよかった平山郁夫シルクロード美術館

甲斐小泉の駅に到着すると、さがす必要もなくすぐ隣に平山郁夫シルクロード美術館は姿を現した。平山郁夫絵画を象徴するラクダ達の像が並べられており、訪れる人々を出迎えている。ここへ来るためにはるばる山梨県までやって来たのだ。なるべく美術館に長く滞在するため、早速入場した。

入場してまず目に飛び込んできたのは、無数の仏像達である。平山郁夫がシルクロードの旅の最中で収集したものであろうか、シルクロード各地の仏像が整然と並べられている。仏像発祥の地のガンダーラのものや、パキスタンのものなど、普段はお目にかかれないようなものが多い。仏像といえば、日本を含む東アジアのものは、心穏やかな凹凸のあまりないお顔が印象的であるが、中央アジア周辺の仏像は、その地域の人々の顔の作りを反映させているのか、くっきりとした濃厚なお顔の仏像が多いのが面白い。仏像も作られた地域によりお顔がまったく異なってくるのだ。そしてその仏像を信仰の対象としている人々が、また仏像のお顔にようにそれぞれの地域で異なる祈りを捧げているのか、それともすべての仏教徒は同じ仏法の心のもと繋がっているのか、興味深いところである。

 

仏像が終わると、日本各地の絵画が展示されていた。彼はシルクロードの絵描きとして非常に有名だが、日本各地も旅して渡り、精力的に作品を描いていたようである。この時は東北の旅の特別展が開催されており、非常に大きく迫力のある奥入瀬渓流の絵画も展示されていた。この奥入瀬渓流の絵が、後にぼくを東北の旅へと導くこととなる。他にも熊野古道や首里城など、ぼくの人生から身近なところにある絵画も多くあり、より親しみを感じずにはいられなかった。

 

 

2階の大きな展示場では、有名なラクダの行進の大きな絵画が、何作品にも渡って部屋いっぱいに並べられていた。夜の月の砂漠、夕暮れのオレンジの砂漠など、シルクロードのラクダの行進というテーマを軸として様々な場所、様々な時間帯で描かれており見ていて飽きることがない。それどころかどんどん心が吸い込まれていく思いだ。絵画のすぐ近くで鑑賞できるので、細かなところまで詳細に観察することができ、絵を描く際の参考にもなりそうだ。

 

 

また、シルクロードから持ち帰ったものは仏像だけではないらしく、シルクロードの様々な骨董品も見ることができた。その他に、平山郁夫作品の写真集や彼の著書を自由に見られるスペースも設けられており、作品を眺めるのに疲れたらそこでゆっくり休憩することもできる。

 

ぼくは、平山郁夫シルクロード美術館というからには、絵画の作品だけの美術館だと思っていたので、これほどに充実した内容であるとは意外で嬉しかった。作品と同じく、非常に濃厚で充実した時間を過ごすことができた。不便なところにあるので来るかどうか迷ったが、間違いなくはるばる来てもなお満足のいく美術館である。

 

 

・美しい高原の清流

平山郁夫シルクロード美術館を退場し、次の電車まで時間があったので、美術館の周辺を散歩することにした。はるか遠くに八ヶ岳が見える。自然に満たされた爽やかな高原だ。

 

少し歩くと、三分一湧水という場所があり、そこでは清流が流れていた。澄み切った空気に、澄み切った清流のせせらぎ。心の中まで洗い流されるような気分になった。このようなところに美術館を作った人の気持ちが少しわかるような気がした。

 

 

・里へとくだる列車(山梨から長野へ)

駅の待合室には、標高が書かれた看板があった。やはりここは高原なのだ。

 

ここから長野県に向かって行くにしたがって、だんだんと標高は下がって行くようだ。また小海線に乗り込み、長野県へと出発した。徐々に高原の景色から、普段見慣れたような人里の景色へと変化していく。なんだか夢から覚めていくような不思議な気分がした。初夏の高原というのは夢のように素敵な場所なんだと、今回の旅で心に刻まれた。里に下りてきたとことで、たけちゃんと合流した。

 

 

・長野県の思い出

たけちゃんに車で長野県の佐久市というところを紹介してもらったが、とにかくスケールがでかいという印象を受けた。なんだか店も駐車場もやたら広い。おそらく土地が存分に使えるのだろう。長野県では名物のくるみ蕎麦を食べたり、生まれて初めて鯉を食べたり、温泉に入ったり、久々に会えたたけちゃんと話をしながら、ゆっくりと過ごした。

 

 

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