見渡す限り流氷の海でした。
辺り一面が真っ白な流氷の絶景!網走の「流氷砕氷船おーろら号」に乗ってきた
・おーろら号の電話予約
・おーろら号の港まで
・おーろら号の内部と流氷ビール
・デッキから見る不思議な氷の世界
・おーろら号写真集
・おーろら号の電話予約
この北海道の冬の旅のテーマは、ぼくの中では“流氷”だった。“流氷”と聞いて最初に思いついたのは、海を敷き詰めて一面に広がる白い流氷の真ん中を突き進んでいく砕氷船のおーろら号のことである。
“流氷”なんて見たことも馴染みもなかったぼくにとって、流氷によって連想される物事はかなり少なく、知識も乏しかったが、秋に知床半島を訪れた際に宿のおじさんに「今度は冬に流氷を見においで、網走から船で見ることもできるよ」と教えられたことが印象的だった。その時から、なんだかおーろら号に乗って流氷を見なければとなんとなく思っていたのだ。
おーろら号は網走から乗ることができる、観光用の流氷砕氷船らしい。ぼくとてらちゃんは、ぼくがヨーロッパにいる時に流氷の旅の企画をしたので、ラインで電話しながら計画を立てていたのだが、ふたりとも流氷に関してはまったくの無知なので、おーろら号に関してもよくわからなかった。
オーロラ号とは果たしてどのようなものなのか。ものすごく混んでいて予約を入れずに乗ることができなかったらどうしよう。そのような状況はどうしても避けたい。しかし、いくら流氷の季節だからといって、網走に乗れないほどたくさんの人が押し寄せるものなのだろうか。
夏に網走を訪れてから、ぼくの中で網走はものすごく人のいない街というイメージがあった。夏に訪れたにもかかわらず、気温が10度ほどとかなり寒かったことも影響して、余計にさみしいような印象を受けたのかもしれない。なんだか演歌が似合うような、全然人のいない果ての街といった印象だったのだ。しかし街のアーケードに流れていた音楽は、なぜか演歌調の沖縄民謡であり、それがなんだか面白かった。
せっかく行っても乗ることができなかたということがないように、インターネットで予約しておくことにした。しかし、予定日のだいぶ前に予約しようとしたにもかかわらず、インターネット上の予約は締め切られていた。ネット上で予約できない方は電話で予約してくださいと書いてある。
ぼくはそのときヨーロッパにいたので日本には電話しにくく、てらちゃんに電話で予約してもらった。すると案外簡単にできたらしく、朝の11時に乗船することが決まった。
・おーろら号の港まで
ぼくたちは知床半島で海に広がる壮大な流氷の姿を間近で眺めた後、そのままバスと電車を乗り継いで網走までやってきた。網走に到着したときにはもう既に真っ暗であり、そのまま夕食を食べに行ってコストパフォーマンスが最強の「ホワイトハウス」を見つけたのは、既に記事に書いた通りである。
夜の網走はなんとなくさみしい思いのする昼間の網走と違い、しみじみとした中にも活気のある街だった。網走は、昼間と夜でなんだか顔色が違うといった印象だ。店もたくさん開いているし、ネオンのライトが余計に賑やかな印象を与えるのだろうか。ぼくは網走の新しい面を知ることができて嬉しかった。「ホワイトハウス」以外にも、もっと面白そうなお店がたくさんあったので、またの機会に立ち寄りたいとも思った。
おーろら号の港は宿泊していた宿から近く、ぼくたちは朝の時間をのんびりと宿で過ごすことができた。そして徒歩10分くらいで港へと到着した。港へとバスも出ており、遠くの宿に宿泊していても問題なさそうだ。
・おーろら号の内部と流氷ビール
おーろら号はすごい人気らしく、11時発のおーろら号に乗る人々で港は溢れかえっていた。網走にこんなに人がいるのかと驚いたほどである。みんな流氷を見るためにここまでやってきたのだろう。世界中どこを見ても、中国人と韓国人が多い。中国も韓国も寒そうなのに、やはりこのような流氷の景色ははるばるとここまで来るほどに珍しいものなのだろうか。
この溢れんばかりの人々を眺めながら、ぼくたちは予約していてよかったと心から思った。予約をしていても、チケットの料金は港のカウンターで支払う。料金は3300円で現金のみ。ぼくはこの北海道の旅のさなかで、何度「申し訳ありません、現金のみになります」と言われクレジットカードを断られ続けたことだろう。ヨーロッパから帰ってくると、日本の現金主義がありありとわかるようになるのがまた不便さを感じるところである。
このような交通の港でクレジットカードが使えないことなど、不便すぎて他の国ではありえないことではないだろうか。しかも当然バスでも使えないし、お店でもほとんど使えない。網走バスターミナルなどでは、カウンターに「VISA/Master」の立て札が示されているにもかかわらず、クレジットカードは使えませんと謎の拒否をされてしまった。これが日本の道東の端の地域での話だからという問題でもない気がする。ここに来る前の、渋谷の真ん中の若者ばなりのカフェでも現金のみと言われて開いた口が塞がらなかった。本当に現金必須の国である。
おーろら号は乗る人が多く、通常のおーろら号に加えて、2号まで発進するようで、ぼくたちはおーろら号の2号に乗り込んだ。中にはお店もあり、流氷キャンディや流氷ビールなどここぞとばかりに流氷関連の飲食物が売られている。内部では外の様子がよく見せるような高額の椅子がたくさん並べられており、ぼくたちはそこに座って出航を待った。この椅子もすぐに満員になっていたので、絶対に中で座って流氷を見たい方には早めの席取りをお勧めする。
おーろら号は中ではなく、外のデッキに出て流氷を眺めてこそ乗った甲斐があるというものだという情報が多々見受けられたので、ぼくたちは出航までは着席して、船が動き出したらデッキに上っていく予定だった。
待っている間、てらちゃんは網走の青い流氷ビール「流氷ドラフト」を買ってきた。ぼくもてらちゃんもビールなんて嫌いだったが、てらちゃんは「映えのため」と意気込んで流氷ドラフトを500円で買ってきた。わざわざ映えのために買ってきただけあって、本当に透き通るような青さで感動する色彩だった。てらちゃんはそれからものすごくゆっくりのスピードでビールを飲んて、船を降りるくらいにやっとそれを飲み終わっていた。ビールが好きじゃないのにビールを買ってしまったのだから仕方ない。
・デッキから見る不思議な氷の世界
船が動き出したので、ぼくたちはデッキに向かった。やはりデッキで見たいと意気込んでいる乗客はたくさんいるらしく、出港前は埋まっていた座席も空席だらけになり、みんなデッキへと出ていった。
流氷の見えやすいデッキの柵は人々で埋まっており、とても入り込む余地などなさそうだ。もっと先にデッキに出ておくべきだったのか。しかしちょっとすると飽きた人々は船内に戻って行ったりするので、その隙を見計らって柵の場所を確保することは困難ではない。ぼくたちも10分くらいで柵の場所を確保できた。デッキは風でものすごく寒いのかと思ったが、全然風もないし寒くない。
最初、網走の海にはまったく流氷などなかったので「???」と思っていた。知床半島では港が凍りついて、流氷で真っ白に埋め尽くされている景色を見たから、余計に不思議な感じがしたのだ。こんなので流氷が見えるのだろうか。
しかし、沖に出ていくと徐々に徐々に流氷が出現し始めた。最初は脆い、水を含んだ今にも崩れそうな氷水の塊から、だんだんと白く大きな流氷へと変わっていく。ふと氷を見ていると、なんと流氷の上に人間が乗っている!
ぼくとてらちゃんは「え!あそこに人間が乗ってるよー!」などと騒いでいたが、よく見るとそれはオジロワシの群れだった。しかし冷静に考えてみればそれが人間であるわけがない。流氷の上に乗っているのが人間ならば、それはただの死にかけの遭難者である。しかし、オジロワシというのがあまりに大きかったので、ぼくたちは人間と見間違ったのだ。
オジロワシの他に、ぼくにとってはかもめが印象的だった。かもめがおーろら号と同じ速度で、デッキの上を飛んでいて、まるで空中で止まっているかのように見えてしまうのだ。まるで魔法にもかけられたような不思議な瞬間。ぼくは何枚もかもめの写真を撮った。
流氷はどんどんどんどん増えていき、やがて海が知床の海のように、真っ白に流氷で満たされた。本当に流氷を砕いて海を渡っていくらしく、船の通った跡には流氷のない、空白の海の道ができあがっていた。流氷と、オジロワシと、かもめと。普段の日本の生活では決して見られないような、信じられない不思議な光景がそこには広がっていた。本当にここでしか見られない、この船に乗らないと見られない光景である。
ぼくは北海道の歌手、中島みゆきの歌詞を思い出していた。
“あれはオジロワシ 遠くを見る鳥
近くでは見えないものを見る
寒い空から見抜いているよ
遠い彼方から見抜いていると
いばら踏んで駆け出していけば
間に合うかも 狩りにあえるかも”
流氷が船に砕かれてできた海の道は、流氷ビールのように真っ青な色だった。オホーツク海の海の色はいつも不思議だ。沖縄の海のような華やかな青さではなく、深みのある透き通った色をしている。これはまるで、ウラジオストクで見た海の色のようだった。オホーツク海は、ロシアと日本の海。深い慈しみと悲しみを湛えて、どこまでも震えていた。
おーろら号は1時間ほどの航海。ぼくの中ではちょうどよい時間だと感じた。長すぎずもなく、短すぎることもなく、あっけにとられることもなく、飽きることもない時間だ。船を降りるために船の内部に戻ると、船の中にクリオネが展示されていた。
生まれてはじめてクリオネを見た。なんて不思議なんだろう。というか、これって何…???あまりに不思議なその出で立ちに、ずっと水槽の中を眺めてしまった。聞けば、流氷の時期にだけ現れて、そして流氷とともに去っていくという。流氷の不思議な妖精。本当に道東は、不思議なことだらけだ。
・おーろら号写真集