水を買うことなど忘れていました。
1回も水を買わないでシベリア鉄道・ヨーロッパ100日間の旅を乗り切る方法
・旅で水を買わないというメリット
・ぼくのお茶愛とお茶文化圏について
・100日間の旅でお茶を無料で飲み続ける方法
・あたたかいお茶の素晴らしき効用
・旅で水を買わないというメリット
「水を買う」ということは、旅を続けていくにおいて必須の行為だと思っていた。それほどにぼくの中ではペットボトルの水を購入することは、これまでの旅の中でごく自然のうちに行われていたのある。もちろん発展途上国の水道水を飲むことは不安だし、どのガイドブックなどにも飲まないで水を買った方がいいと書かれている。
けれど今回、2018年10月30日〜2019年2月6日の合計100日間のロシアシベリア鉄道〜ヨーロッパ周遊の旅の中で、ぼくは1回も水を購入しなかった。それは今振り返ってみれば驚くべき事実だったと思う。
水を購入しないことのメリットはなんといっても節約になるということだろう。旅というものは基本的に大抵の人々にとってお金を生み出すわけではなく支払い消費する行動であることが多いので、どうしてもお金がどんどん減っていく。それゆえに節約できるところは節約すべきである。
ペットボトルの水なんて、国にもよるがたかだか1ユーロくらいなのでそれくらいいいじゃないかと思われるかもしれないが、ぼくのように100日間の長旅だった場合、塵も積もればなんとやらという感じで、決して小さな額ではなくなってくるのは事実だ。可能ならば、1回も水を買わないで健康で旅を継いでいけるということは、理想的な旅の形ではあるまいか。
・ぼくのお茶愛とお茶文化圏について
だけど100日間も異国で水を1回も購入しないで一体どうしていたのか、と訝しげに思われる方々もいらっしゃるだろう。まさか水代を節約したいがために、水分補給を我慢していたのではないか、まぁかわいそうにと不憫に思われる方もいらっしゃるかもしれないが、そうではない。ぼくは毎日十分な水分補給をし、それどころか毎日好きなだけお茶を飲んで暮らしていた。
ぼくはお茶が大好きなのだ。お茶ほど美味しくて健康的な液体はないのではないかと思っている。お茶こそ日本やその他の東アジアが世界に誇る素晴らしい文化だろう。西洋のお茶文化だって、もともとは中世に東アジアからもたらされたものだ。しかし、そのお茶がもたらされたことが原因で、西洋では大量の砂糖が必要になり、植民地支配などを経てお茶が第一次世界対戦へとつながっていったということを書いていた本があったが、非常に興味深かった。お茶はそれほどまでに人間の世界に影響力のある液体であるらしい。
日本人にとって、毎日おうちでお茶を飲むという行為はごく自然のものだろう。ぼくの家でも毎日ほうじ茶が作られ家族全員に飲まれていた。できるなら、お茶を毎日飲みたいと思うのがぼくのささやかな願いである。
しかしそんなささやかな願いも、異国へと旅立つとなかなか実現が困難となる。日本のようなお茶文化の国というのは、意外と少ないのだ。お茶が日常的に飲まれ、さらにはコンビニやスーパーマーケットなどに様々な種類のお茶が置かれているという文化圏は、日本、台湾、中国の一部だけではないだろうか。
韓国などは東アジアだが、お茶文化圏では決してないという感じがした。中国も南へ行けば、東南アジアやその他の異国と同様、砂糖の入った非常に甘ったるい不味いお茶しかペットボトルで買えなくなる。日本のように自然な砂糖不使用のきちんと“苦い”お茶を気軽に飲める場所というのは、世界でもかなり限られてくるだろう。台湾は本当に日本と同じような世界でも唯一のお茶文化圏で、それはぼくが台湾を心から愛している理由のひとつである。台湾のお茶は本当に美味しい。ぼくの感性の中では、日本のお茶より美味しくて好きかもしれない。けれどこの日本・台湾というごく限られた地域を脱すると、もはやぼくの希望するお茶の世界は実現されてはいないのだ。
しかしこの2018年10月30日〜2019年2月6日の100日間の旅の中で、ぼくは毎日優雅にお茶を飲んで暮らすことができた。それもすべて無料でである。どうやったらそんなことができるのか、その鍵は日本の“魔法瓶”を持って行ったことにあった。
・100日間の旅でお茶を無料で飲み続ける方法
ぼくはこの旅に、宮古島のドンキホーテで買った水色の魔法瓶を携えていった。これは正直ぼくは旅に出る前に悩んだ。本当に魔法瓶なんて旅に必要なのだろうかと自問自答していた。というのも、ロシアシベリア鉄道の旅に出かける前のインドネシア横断の旅にも魔法瓶を持っていったが、要るんだか要らないんだか、持ってきてよかったのかよくなかったのか、まったくわからない曖昧な存在だったからだ。しかしこのシベリア鉄道〜ヨーロッパ周遊の旅ではまったく違った。魔法瓶は大活躍で、もはや真冬の旅には欠かせない必須アイテムだったと自負している。
ロシアは意外にも、アジアにその国土が広がっていることが理由かもしれないが、結構お茶文化圏であり、宿にも無料で紅茶のティーパックが提供されていた。そしてどの宿にも無料の飲料水と湯沸かし器(電気ケトル)が設置されていた。このような環境が整っていて、なお且つぼくが日本から魔法瓶を携帯していれば、ロシアで毎日温かいお茶を飲むことは簡単に可能だった。
温かいお茶を飲むということは、ぼくにとって毎日お茶を飲めるという幸福をもたらすだけではなく、極寒のロシアシベリア〜真冬のヨーロッパの中で冷え切った身体を温めることができる作用をももたらしたので、精神的にも肉体的にも非常に有効だった。
シベリア鉄道に乗った時などは、お茶っ葉がないので、宿の無料で提供されているティーパックをちょっといただき、それを使ってシベリア鉄道の中でも毎日お茶を作って飲んでいた。シベリア鉄道の中では、無料の給湯器が設置されているので、それを使ってお茶を作ったりカップラーメンを作ったりできるのだ。何もすることがない長い長いシベリア鉄道の列車の中で、温かいお茶を飲みながらロシア人と交流できることは、非常に心休まる時間となった。
ロシアを通過してからは、どこの国でも日本のように“tap water(水道水)は沸騰させれば飲むことが可能”らしく、ぼくは水道水を毎日沸かしてお茶を作り続けた。水道水を飲むことが可能かは、最初はいちいちその国で宿泊した宿のフロントの人に聞いて確かめてから飲んでいたが、ヨーロッパではどこの国でもみんな飲んでも大丈夫と言うので、旅の終盤に差し掛かる頃にはもはや質問しないで水道水を沸騰させて飲んでいた。それでも何のトラブルもなくむしろ健康的に旅ができたので本当に大丈夫な可能性は高い。
次第にお茶文化圏ではなくなり、ロシアのようにどの宿でもお茶っ葉を置いているということがなくなってくるが、それでも無料で大量に置いてくれているところはあるので、その時にちょっとお茶っ葉をいただき、設置されていない宿ではそれを使ってお茶を作り続けた。かくしてぼくは100日間、毎日お茶を飲めるという幸福な旅を続けながら、水を購入する必要もなく、おそらく結構な額の節約できただろうと考えている。
本当に本当に冬のロシアシベリア鉄道〜ヨーロッパ周遊の旅では、魔法瓶を持ってきてよかったと何度も心から思った。真冬のヨーロッパ旅行を計画されている方は、魔法瓶を持っていくことを心の底からおすすめする。別に短期の旅行だから水代など痛くもかゆくもないというのならばそれでもいいかもしれないが、ちょっとした手間で日本にいるように幸福にお茶が飲めて、なお且つお金の節約にもなり、浮いたお金でちょっと贅沢な料理を旅行中に食べるのは賢明な旅行術であるように思われる。
“魔法瓶”とは、どうして魔法の瓶と呼ばれるのか知らないが、まさにこの旅においては魔法のように人間に恩恵をもたらす瓶であったことに相違はない。ちょうどぼくが持っていた水色の魔法瓶と同じものがアマゾンにあったので掲載しておく。量といいい形といいこれは本当に長旅のお供として最適だった。
・あたたかいお茶の素晴らしき効用
ぼくは元来温かいお茶など飲まなかった。どちらかというと冷たいお茶を飲み続けてきた人生だったが、ぼくはこの100日間のロシアシベリア鉄道〜ヨーロッパ周遊の旅の中で、温かいお茶って実はものすごく体にいいのではないかと実感してしまった。
温かいものを取り入れることが体にいいというのを発見し、今でも積極的に日常で取り入れているのが中国人の人々である。彼らは中医学の観点から、冷たいものは体に悪いからと拒否し、なんと暑い夏の日々でも積極的に熱いものを飲んだり食べたりするというのだ。
ぼくはロシアの北極圏の街・ムルマンスクで3人の中国人と一緒にご飯を食べた時にそのことについて聞いてみたが、皆口を揃えてそうだ、暑い時でも熱いものを取り入れるんだ、そうすれば涼しくなるよと答えていたのが印象的だった。日本人的には暑い時は積極的に冷たいものを摂取しようとする傾向があるので、同じ東アジア文化圏でもこれは大きな違いであると言えよう。ぼくもそのギャップには戸惑いを隠せなかった。暑い時に熱いものを摂取するなんて、聞いているだけでめまいがしそうだ。
しかしぼくはこの温かく熱いお茶を毎日飲んでいた100日間は、すこぶる体の調子がよく、体を温めることが健康のもとだという中医学の説はあながち間違いではないような気がする。特にぼくは朝にお腹を下しやすい性質だったが(特に温かくない飲み物を朝に摂取したときにはそれが顕著だった)、朝に温かいお茶を毎日飲むようになると、お腹の調子もとてもよくそのようなことも一切なくなった。
朝にお腹が痛くなったのは、冷たい飲み物を摂取したことが原因だったのかもしれないと、薄々は感じていたが、今回の旅でそれは確信に変わった。これからは温かいお茶を積極的に体に取り入れることで、健康な体の状態およびお腹の状態を整えたいと思った次第である。このような発見も、長旅をしたからこそ自分が獲得した知恵であり、旅の恩恵と言えるだろう。旅をすればいろいろなものを喪失することもあるかもしれないが、沢山のことを獲得していくのだ。