バイカル湖の生水をガブガブ飲みました…。
珍妙体験!世界一深いロシア・バイカル湖の生水を飲む変なフェリーツアーに参加した
・青いバイカル湖の風景
・バイカルアザラシの残像
・バイカル湖の市場で感じた日本との民族的なつながり
・バイカル湖の生水を飲むためのフェリーツアーに参加
・青いバイカル湖の風景
格安のバスに乗って、無事イルクーツクからバイカル湖までたどり着くことができた。バスから見えるバイカル湖の水面の煌めきが、より一層バイカル湖への期待を高めてくれる。
世界一深いバイカル湖。「世界で最も深い湖の名前」として中学や高校の地理で習うことはあっても、きっと一生訪れることなんてなかっただろうと思っていた湖の目の前に、ぼくは立っていた。思いがけないということが、生きているうちには度々起こる、思いもよらないことだけで、人生は成り立っていく。
目の前に広がるバイカル湖は、まるで海のようだった。澄んでいるけれど深い青色は、さながらウラジオストクから眺めたオホーツク海の色彩だった。ぼくはほんの3日前にいたウラジオストクを、ひどく懐かしく思った。3泊のシベリア鉄道の旅をしただけで、とても遠い街へ来たような気になっていた。そして実際その通りなのかもしれない。
ここはシベリアの真ん中。真ん中なのに辺境の気配が漂う。バイカル湖周辺のリストビャンカの街には、あまり家もなく、人もまばらで、ただ市場には人々が集まって、多くはない客をのんびりと待ち構えている。
・バイカルアザラシの残像
バイカル湖のほとりの街リストビャンカでは、特に何もすることがなかった。ただ、バイカル湖をこの目で一目眺めてみたかっただけなので、それでいいのだ。のんびりと青く澄んだバイカル湖の水辺に添いながら街中を歩いていく。
バイカル湖の水は海のように、波が打ち寄せては返していた。中国の山奥の九寨溝という湖も「海」と書かれていたし、「みずうみ」という日本語にも「うみ」という言葉が入っている。むしろ「みずうみ」という言葉は「水海」と書くことが本来かもしれない。湖は海のようだと、昔の中国人も日本人も思ったのだろうか。
バイカル湖にはバイカルアザラシというアザラシがいるらしく、そこら中でアザラシの可愛らしい絵や写真やお土産品を見つけることができる。バイカルアザラシは夏はバイカル湖全体に生息するが冬の間は北へと逃げてしまうらしく、ぼくは見つけることができなくて残念だった。その代わりバイカルアザラシの絵や写真やお土産の写真を撮っておいた。
・バイカル湖の市場で感じた日本との民族的なつながり
バイカル湖のほとりの市場は。珍しいものであふれていてとても面白かった。ロシアシベリア鉄道〜ヨーロッパ周遊100日間の旅を遂行したが、バイカル湖の市場には、ここでしか見られないようなものばかりが並んでいて興味深いことこの上ない。
食べ物としては変な魚の干物がたくさん並べられている。おそらくバイカル湖で獲れた魚たちなのだろう。
食べてみたい気持ちもあったが、どうやって食べられるのかもわからないし、その場で食べられるのかもわからないし、英語も通じないし見るだけにしておいた。
特に面白かったのは民芸品だ!こんな変な民芸品ここでしか見たことがない!
おそらく北方の少数民族たちによるものなのだろう。なんという独特な感性!それと同時に、なんだか縄文の感性に似ているような気分もする。司馬遼太郎がこの周辺の民族(ブリヤート人)から日本人に分岐しているのではないかとどこかの本に書いていたことを思い出し、なんだかそれを実感した。
このようなシベリアの辺境で、日本人と同じような感性を感じることができるなんて、やっぱり世界は面白い。それは意外でもなんでもなく、世界はどこかしら随所随所で点と点としてつながっており関わり合っているのかもしれない。
世界中にある日本に似ている感性を見つけ出すような旅も感動的で面白いかもしれない。
そしてやっぱりいっぱいあったのはバイカルアザラシのぬいぐるみやグッズである。ただかさが大きいので、これから長旅をするであろうぼくは買えなかった。
・バイカル湖の生水を飲むためのフェリーツアーに参加
のんびりとお散歩して、もうイルクーツクの街へ帰ろうとしてバス停まで戻った。イルクーツクへ戻るためには、今度は降りたバス停でイルクーツク行きのバスに乗ればいいだけなので簡単だ。
しかしバス停にはバスがなく、次のバスが出るまでバイカル湖の港をぶらぶらしていた時に、とんでもないことが起こった!なんとフェリーのツアーが催されているらしく「へい!来いよ!」みたいな感じで船乗りのおじちゃんに誘われてしまったのである!しかもほとんどロシア語しか話さないので、何を言っているのか全部はわからないが、船に乗れよと言っていることだけはよくわかる。
「どうしよう…」と考えていると、あれよあれよという間に船に乗せられてしまった!フェリー代も教えられていない。ぼく以外はみんなロシア人だ。英語が通じない。そしてこのフェリーの目的地も全くわからない。不安を感じながら、ぼくはバイカル湖の冒険に出航した。
どんどん岸辺が遠くなる。なんだか心細くなる。ぼくたちはどこへ向かうのだろうか。しかし恐らくは1時間くらいかけてバイカル湖内をぐるぐるして戻ってくるだけの船旅なのだろうと予想していた。だが、このフェリーのツアーにはぼくの思いもよらないような目的があったのだ!
30分くらいかけて、バイカル湖の真ん中で船が突如止まった。みんなこっちへ来いよと呼びかけてくれている。何が始まるのか全く想像がつかない。すると船乗りのおじさんは、バケツをバイカル湖に投げ込み始めた!そしてバケツにバイカル湖の水をいっぱいに入れて引き上げた。そしてロシア人たちはみんな各自自分のコップを持っており、それを使ってバケツの水を飲み始めた!
ぼくは驚愕した!そんな湖の水を生で飲むなんて、汚くないのだろうか、お腹を壊さないのだろうか。しかし思い返してみると、確かにイルクーツクの街中でもバイカル湖の水がそこら中で売られていた。バイカル湖の水は体にいいとされており、売られているほど価値のある商品なのだ!そしてこのフェリーのツアーは「バイカル湖の真ん中から組み上げたバイカル湖の水をみんなで飲もうツアー」だったのだ!
そんなツアーがこの世にあったとは!そして当然そのツアーに知らず知らずのうちに参加してしまっていたぼくは、バイカル湖の生水を飲まなければならない。しかしぼくにはコップがなかった。代わりに紅茶が入っている水色の魔法瓶を取り出した。中にはわざわざ作った紅茶がいっぱい入っている。
中の紅茶をどうしよう…と思う暇もなく、船乗りのおじちゃんがそれを取り上げ、中の紅茶を盛大にバイカル湖にぶちまけた!ああぼくの紅茶…せっかく作った紅茶はバイカル湖の藻屑となり、魔法瓶の中にバイカル湖の水は注がれた。ここまできたら飲むしかない、とぼくはお腹を壊すのを覚悟でバイカル湖の生水を飲んだ。
…うん、水だ。美味しいか美味しくないのかわからない、まさしく水という感想である。そもそも、水の味の違いがわかるほど肥えた舌を持ち合わせていない。しかし、みんなこれをありがたがって飲んでいるのだし、きっと健康にいいのだろうと思い込んで飲むと意外と気分がよかった。ロシア人たちはこの水を「マニー!マニー!」と教えてくれた。きっと売れるのだという意味だろう。英語がわからなくても、ぼくたちはコミュニケーションをなんとかとって仲良くなった。
フェリーの上でみんなでバイカル湖の水を飲み、みんな持ってきたペットボトルやら水筒やらにバイカル湖の水をいっぱいに詰め込んで、フェリーは陸へと帰った。陸へと帰り着いた際には、もう夕焼けが優しくバイカル湖を包んでいた。
値段は500ルーブルだった。ぼったくりじゃなくて、よかったよかった。ここでしか経験できない貴重ないい思い出となったことに間違いはない。ぼくはそのまま帰りのバスを見つけて、イルクーツクまで帰った。
結局全くお腹を壊すことなく、健康なままだった。
ぼくのお腹が強いのか、バイカル湖の水が清らかなのか、真相は定かではない。しかし考えてみれば人間だって動物みたいに過ごしていた頃は、きっと川の水や湖の水だって飲んでいたことだろう。そして腸も当然それに応し、自然の生水でもお腹が壊されない仕組みになっていることだろう。人間によって消毒された水しか飲めないなんて、世界を狭めているだけかもしれないと考えた。