やっとここまで来た鉄の十字架へ!
スペイン巡礼23日目!鉄の十字架と自分自身だけの聖地
・スペイン巡礼の最高峰「鉄の十字架」
・スペイン巡礼で大渋滞!
・巡礼の旅で最も美しかったMolinasecaの街
・Ponferradaの便利なスーパーマーケットでお買い物
・お金を持たずに施しで巡礼を続ける救急医
・スペイン巡礼23日目記録
目次
・スペイン巡礼の最高峰「鉄の十字架」
今日もいつも通り6時半に出発し、FoncebadonからPonferradaまでの27kmの道のりを進む。前日のアストルガからFoncebadonまでの道は険しい上り坂が続いていたが、この日は激しい下り坂!上りがあればその後には必ず下りがあるというものだ。最近は30度を越す猛暑の日が続いており、激しい上り坂は体力を奪われ熱中症にもなりやすくなるので、下り坂が続いているこの道は歩きやすく、巡礼者にはありがたい。
山間の静かな村であるFoncebadonから早朝に歩き出すと、北スペインの山々を見下ろしながら爽やかに歩くことができる。その途中では、なんとさながら紀伊山脈のような神秘的な雲海を見ることもできた。
Foncebadonからしばらく歩くと「イラゴの峠」にさしかかり、そこには神聖な「鉄の十字架」が堂々と聳え立っている。スペイン巡礼はキリスト教の道らしく、その途中でたくさんの十字架を見ることができるので、ともすればこの十字架もパッと見ただけでそのまま通り過ぎてしまいそうになるが、この十字架は特別に有名であるらしい。この「鉄の十字架」は標高1500メートル地点にあり、カミーノの巡礼路の中で最も高い場所に位置するという点でも何とも感慨深いものがある。ここまで来れば、長かったカミーノの巡礼ももう少しで終わるという安堵の思いも込み上げてくる。フランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポーからはるばる500〜600kmも歩いて遂にこんな北スペインの西の場所までやって来たのだ。人間というものは、予想以上にたくさん歩いて移動できる生き物らしい。
ここはキリスト教で言えばパワースポットのような役割も果たしているのだろう。家から石を持ってきて巡礼路を渡りここにたどり着いて十字架のもとに置けば、願いが叶えられるのだという。またここから見る朝日の光は、大きな空に十字架の陰影を描き出しながらより一層美しく見えた。
ぼくはこの場所が、カミーノで最も標高の高い場所であるということも、願いを叶えてくれるありがたい場所だということも「鉄の十字架」を通り過ぎた後で初めて知った。この十字架の周囲には他の十字架とは違って人がたくさん集まっていたので、なんとなく特別な十字架なんだろうという予想はできたが、事前の知識がまったくなければ、他の十字架と何が異なっており一体何がありがたいのやらよくわからないままに通り過ぎてしまった。けれどそれでよかったと思っている。
知識を蓄えた後で、いわれや歴史を知り尽くした上で、ありがたいと感じるものだけが本当だろうか。長い人類の営みの中で、過去の身知らぬ人たちが決めつけたありがたい場所を、敬い崇め奉ってありがたがることが巡礼だろうか。なにひとつ知識を持ち合わせていなくても、なにひとつ伝説や物語を知らなくても、今まさに炎のように生きている自分自身の感性が直感で、ここがとても特別な場所だと感じるその地点こそ、自分にとっての大切な場所なのではないだろうか。たとえ学者たちがそこは重要ではない平凡なエリアだと罵っても、自分自信の直感が自分自身に呼びかけてくれるその場所こそ、自分という魂にとっての神社なのではあるまいか。
本当に人の魂にとって大切な場所というものは、大地と同様に固定的で動かないものだろうか。すべての魂が流転するように、まさに魂にとって重要な場所でさえ、風のように転生し流転していくのではないだろうか。それを今生きているぼくたちが、真に嗅ぎつけることが巡礼ではないだろうか。
・スペイン巡礼で大渋滞!
この日はスペイン巡礼ではじめての大渋滞が発生した。道が山道で狭かったのに加えて、スペインの高校生の団体さんが100人以上合宿でやってきて道を塞いでしまったのだ!さすが北スペイン、高校生でもスペイン巡礼を学校生活の一環として気楽に楽しめる土壌が整っているらしい。100人以上の高校生たちはのんびりのんびり歩きながら道を進むので、100人以上を抜かす気力もないぼくたちは、彼らに合わせてゆっくりゆっくりと巡礼した。
彼らもぼくたちと同様に、最終目的地はサンティアゴを目指すらしい。今日は1日だけだったからよかったものの、毎日こんなに大渋滞が発生したらどうしよう。
・巡礼の旅で最も美しかったMolinasecaの街
FoncebadonからPonferradaまでの巡礼路の途中には、本当に本当に美しいMolinasecaという山間の町が存在した。なんだかフランスの田舎の村を訪れた時のように、本当に本当に素敵な町だったので、ぜひここに宿泊してみたかったが、残念ながらここは今日の目的地ではなかった。けれどのこの町での休憩に多くの時間を割き、昼ごはんを含めてなんと計2時間もここに留まっていた。それくらい魅了的な町並みだった。もしも叶うなら、またここを訪れて1日くらいゆっくりしてみたい。
この美しい町でものすごくゆっくり休憩してしまったばっかりに、困ったことが生じてしまった。快晴+猛暑のスペイン巡礼で気温はさらに上がり、昼下がりの時間帯は暑くて暑くて歩くのが本当に大変だった。ぼくたちはこの日の教訓として、連日の猛暑の中をなるべく快適に歩く対策として、早朝のうちにたくさん歩き、なるべく休憩することなく、暑くなる前の早い時間帯に目的地に到着しようという計画を立てた。スペインも6月後半になり真夏にさしかかるにあたり、ついに暑さが巡礼者を苦しめる季節がやってきたようだ。
・Ponferradaの便利なスーパーマーケットでお買い物
暑さに悶えながら目的地のPonferradaまで到着した。Ponferradaは意外と大きな街で、歴史があるというよりは新しい住宅地のような街並みが広がっているという印象だった。大きな街なのでスーパーマーケットも超巨大で、なんでも揃っているのでその便利さに興奮した。スペイン巡礼は主に、小さくて素朴な村々を巡ることが多いので、ものすごく買い物に不便することに慣れていたので、その反動で綺麗で便利なスーパーマーケットを見つけるとありがたさを感じてしまったのだった。このスーパーマーケットには生搾りのオレンジジュースや、大きな海鮮コーナーなどもあり、ぼくたちはムール貝やイカ、タコを買ってアルベルゲで海鮮スープを作った。
・お金を持たずに施しで巡礼を続ける救急医
暑すぎたのでPonferradaの街自体は全く回らなかったが、寄付制のアルベルゲSan Nicolas de Flue Pilgrims Hostelで快適に過ごした。このアルベルゲでは、フランス人の救急医で巡礼しているという敬虔なカトリック教徒に出会った。彼は荷物も最小限に、お金を全く持たないまま巡礼をしているというので本当に驚いた!一体そんなことがどうして可能なのだろうか!聞けば全くお金を持たずに人々の施しのみで巡礼をしているのだという。これが巡礼の究極の形と言えるだろう。まるで何もかもを手放して旅に出ざるを得ない神聖な能の主人公のような気配さえする。
彼はアジア人のぼくに鍋で白米の炊き方を教えてくれと言ってきた。その白米も施しとして貰い受けたものらしい。いくらぼくがアジア人でも、日常では鍋で白米を炊いているわけではなくいつも炊飯器を使うが、幸いにも旅の途中でパキスタン人のおじさんにどのようして炊飯器なしで鍋で白米を炊くかを習って何度も実践していたので、今度はその術をぼくが彼に伝授した。彼はとても感謝してくれ、ぼくは彼の白米の先生だと言っていた。彼は出来上がったご飯に他におかずが何もないからとトマトケチャップをかけて食べようとしていたので、ぼくはてらちゃんからもらったインスタントのお味噌汁を彼に与えた。彼はお味噌汁を食べたことがないと言っていたが、きっとトマトケチャップよりはご飯によく合ったことだろう。
しかし彼は救急医として働いていてお金を持っているはずであるにも関わらず、お金を持たずに巡礼しているのはどうしてだろう。それが聖なる者のしきたりなのだろうか。施しで巡礼しているとか旅しているとか言えば聖なる感じがして聞こえはいいが、自分が財産を持っていて自分の財力で旅をするのが可能であるにも関わらず施しにより旅をすることは、いいことなのだろうかあまりよくないことなのだろうか。そんな素朴な疑問を彼に投げかける時間もなく、また次の日の朝がやってきて巡礼は始まるだった。
・スペイン巡礼23日目記録
出発6時半 到着14時00分
消費カロリー1019kcal 歩数47003歩
移動距離29.6km