世界一遅い急行!美しきスイスの氷河特急を旅する

 

世界で一番遅い急行がスイスにあるらしい。

世界一遅い特急!美しきスイスの氷河特急を旅する

・氷河特急という直感
・氷河特急の座席について
・スイスと氷河特急の不思議な時間
・マッターホルンと天気予報
・氷河特急写真集

・氷河特急という直感

この旅はロシアのシベリア鉄道の旅から始まったが、それ以降あまり電車に乗ることがなかった。バスの方が安いし便利だったからだ。特段急ぐ旅ではないので、速さよりも安さを重視していると、自然と電車から遠ざかってしまっていた。その街へのバスがなくて電車しか移動手段がないときのみ電車を利用するような感じだ。たとえばウィーンからザルツブルグ、ザルツブルグからインスブルック、インスブルックからサンモリッツの移動などは電車で移動していた。いずれも主要都市でありバスがあっても不思議ではないのにインターネットでバスを検索しても出てこなかったのがとても不思議だった。

そんな中、シベリア鉄道と並んでぼくがどうしても乗りたいと思ってしまった珍しい列車がある。スイスのサンモリッツとツェルマットを結ぶ“氷河特急”である。氷河特急は世界で最も遅い列車と言われ、サンモリッツからツェルマットまでなんと8時間もかかる。ゆっくりゆっくりアルプス山脈の中を進んでいく列車は、まさにゆっくりとしたこの旅にふさわしい。この路線と景観はそれ自体が世界遺産にも登録されているという。そして「氷河特急」という名称も「シベリア鉄道」と同じくなんだか趣があってかっこいい。

サンモリッツから氷河特急で行くツェルマットという街は、あの世界的に有名なマッターホルンを見られる街として栄えているようだ。山岳の高級リゾートサンモリッツから氷河特急に乗り込みツェルマットにたどり着けば、そこではマッターホルンが待っているなんて素敵すぎる行程ではないか!氷河特急は片道指定席の料金を合わせて17500円くらい。決して安いとは言えないし、いやむしろすごく高い!しかしそれでも人生に一度きりこの氷河特急に乗った思い出を作りたいとしたら、ここでお金を奮発するしかない。

サンモリッツから出ているもうひとつの有名な列車があり、それはベルニナ急行と呼ばれ、スイスのサンモリッツとイタリアのティラノを結んでいる。こちらも氷河特急と同様にアルプス山脈の景観が素晴らしいとされ、しかもこちらは2時間で着くので気楽だ。しかも急行ではなく普通列車も走っているようで、それだと片道3000円ほどでお財布的にも優しい。インターネットでも氷河特急の方がよかったとか、ベルニナ急行の方が勝っていただとか様々な意見が交錯している。

ぼくも実際このふたつで散々迷ったが、やっぱりマッターホルンの麓の町へとたどり着くという魅力と、そしてスイスの首都ベルンへの行き方が、スイスのツェルマットからだとわかりやすいがイタリアのティラノからだと国が違うのでなんだか複雑そうだという理由で結局は氷河特急を選んだ。しかし、本当は直感で選んだのだと言えるだろう。氷河特急の方に訳もなく呼ばれている感じがしたのだ。

 

 

・氷河特急の座席について

サンモリッツから9時15分発の氷河特急へ乗り込む。車両の構造は今までに見たことも乗ったこともないようなものだった。外の世界がより広く壮大に見えるようにパノラマ式になっており、側面の窓がきわめて大きばかりではなく、天井に近い側面の部分まで可能な限りの範囲がクリアな窓で構成されている。これならばアルプス山脈の景観を可能なかぎり楽しむことができそうだ。

机の上には氷河特急のパンフレットが整然と並べられており、日本語もありたくさんの見所も紹介されている。ぼくは中で食事はとらなかったが、食事のメニューもおもむろに配られ、それはやはりスイスの街で見かけるメインが3000円以上が普通のレストランのメニューと同様ものだった。他にも氷河特急ならではのお土産のパンフレットも配られ、これは見ていてとても楽しかった。どうやら列車の中でもこぼれないための傾いたワイングラスやマグカップが代表的なお土産のようだ。値段も2000円くらいとものすごく高いわけでもない気がする。

2等車は4人がけの指定席だが、たくさん空席があって余裕があるので、みんな思い思いの席に座っている。空いているのに指定席にこだわって座って狭い思いをする必要などないのだ。これならば2500円の指定券なんていらなかったのではないかと心から思ったが、指定券を買わないと氷河特急には乗れないような仕組みになっていたので仕方がない。

これはぼくが氷河特急をインターネットで申し込む際に非常に迷ってしかも調べてもなかなか書いていなかったことなのでここで書いておくが、サンモリッツから出発する氷河は、番号が大きい席が進行方向前となって進行していく。しかしChurという駅からはそれが逆になり、番号が若い席を進行方向前として進んで行くように切り替わっていた。そしてサンモリッツとChur間は番号の大きい席が進行方向前に、Churとツェルマット間は番号が若い席が進行方向前になるというのは、逆のツェルマットからサンモリッツ行きの氷河特急でも同様だという。

そしてどの席が一番いいか、右か左か、前か後ろか予約する際に非常に気になるところだが、実際に乗ってみた感想としてはどこでも全然変わらないだろうということだった。有名なラントヴァッサー橋の写真を上手に撮りたければ、進行方向左の後方がいいだろうという噂だったが、なるほどこれはまさにその通りだなと思った。しかしそれ以外はまったく左右前後で座席に優劣などまったくなく、どの席でもスイスの車窓の風景を思う存分楽しむことができる。

既述したが冬だからか空いており、みんな氷河特急の指定席ではなく思い思いの場所に座ることができていたので、インターネット上で予約するときにどの席がいいのだろうとあんなに悩まなくても全然よかったなぁという感想が強かった。しかもなぜか席が空いているだけではなく、2等車の車両がまるまるひとつ空いている車両があり、ぼくはそこへ勝手に移動して快適に座っていたが、乗務員さんにも別に何も言われなかったし好きにしてねという気軽な雰囲気だった。ますます高かった指定券の意味は…と困惑してしまった。

 

・スイスと氷河特急の不思議な時間

さて肝心の列車からの眺めだが、もう感動しきりだった。こんな列車からの風景今までに見たこともないという驚きがある。刻一刻と車窓からの風景が変わり、しかもそのどれひとつとして同じものはないので常に魅了され続け飽きることがない。8時間もゆっくりと列車に乗って飽きないだろうかと若干心配していたが、そんな心配はまったくの不要であった。

スイスの牧歌的な風景、流れ行く街の情景、動物たちや人間の生活、どこまでも白く連なる山々の姿、雪に閉ざされた完全に真っ白な世界。スイスって素敵な国だなと改めて感じていた。そして今まで生きてきて見たこともない景色であふれている。

聳え立つ山々の側面に、ポツポツと家が点在したりしていてまるでアルプスの少女ハイジの世界だ。こんなところでどうやって暮らしているのだろうと不思議に思ったり、人はどんな場所にでも住むことができる適応能力を持っているのだなぁと感心したりしていた。さみしくないのだろうか、動物たちと暮らしているのだろうか、買い物はどうしているのだろうかなどとぼんやりと考えていた。山間に突如出現する村々も美しい。同じような木造の家々が立ち並び、遠くから眺めるとおもちゃの世界を覗いているみたいだ。

車窓からの景色を見ていると、知らない間にウトウトと眠ってしまっていて、ふと気づいて起きたらまた景色をぼんやり見て、それをまた繰り返して…8時間の世界で最も遅い特急だからこそ味わえる、のんびりとした時間がぼくの中に流れていた。スイスという国の雄大さと荘厳さとのどかさと、列車の旅のゆっくりさとのんびりさと豊かさが絶妙に絡まって、この精神に不思議な時を流された。

青空だったり、あたたかい日の光だったり、色々な色彩が移り変わっていったけれど、アルプス山脈の中に入り込んでもうそろそろツェルマットにたどり着くという頃になると、空も山も地上も、見える景色なにもかもが真っ白で、目眩がした。

 

 

・マッターホルンと天気予報

ツェルマットへは17時に到着した。残念ながら少し雪がちらついておりこの日はマッターホルンを見ることができなかった。明日見られたらいいなぁ見られますようにと祈りを込めた。明日の天気予報はどうなっているだろう。スマートフォンで見てみようかなぁと思ったけれど、やめた。お天気の運命は明日、直接空に聞けばいいのだと思った。

ぼくはあまり天気予報を見る人の気持ちがわからない。ぼくのお母さんが明日に天気を必ずチェックして雨だ晴れだと言っているが、親なのにその気持ちがあんまりわからない。そんなの明日になって空を見上げればいいではないか。明日になって雨が降っていれば傘を持てばいいし、明日になって晴れていれば帽子を被ればいいのだ。そのときそのときで今を生きて、今の状況に対応すればいいのだ。明日の天気なんか知ったって人間は何もできないではないか。人は雨を晴れにすることもできないし、雪を積もらせることだってできない。しかもそれが確実な天気の断言ではなく、あくまで予報というのだから不思議だ。

嘘か本当かもわからないものを見て、ああ明日は晴れだと無為に喜んだり、明日は雨だとあらかじめ残念がる準備なんてしなくていいのだ。天を仰いで、すなわち、天へと思いを抱く。人間が生きることなんて、それで十分ではないか。ぼくは明日の天気を、人ではなくツェルマットの天に聞こうと思った。明日晴れていますようにと祈りを込めて。

 

 

・氷河特急写真集

 

 

 

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