映画かもめ食堂の魅力は人の悲しみを問わないこと

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ぼくは映画かもめ食堂が好きだ。スマートフォンに入れて何回も見てしまうし、フィンランドに来るとロシアで決めてからは、シベリア鉄道の中でも見ていた。ぼくの中でフィンランド=かもめ食堂なのだ。ここではなぜぼくがそれほど映画かもめ食堂が好きなのか自分なりに考えてみようと思う。

映画かもめ食堂の魅力は人の悲しみを問わないこと

・映画かもめ食堂のあらすじ
・明かされない事情
・軽薄な人々
・悲しいひと
・美しい抽象画の風景
・神聖な空白

・映画かもめ食堂のあらすじ

映画のあらすじは簡単である。フィンランドのヘルシンキで日本人女性・さちえさんが和食を中心に出すかもめ食堂を営んでいる。かもめ食堂のメインメニューはおにぎりだ。しかし、ひとりの東洋人がやっているお店に関心は持つものの怪しがってフィンランド人は誰も店に入らず、お客さんは誰も来ない。当初はひとりでやっていたかもめ食堂だが、偶然本屋さんで出会ったみどりさんとロストバゲージで困っているまさこさんのふたりがお手伝いをしてくれるようになり、その3人の日本人女性を中心に話が展開していく。

ヘルシンキを舞台にいろいろなフィンランド人を巻き込みながら、特に大きな起伏もなく淡々と、時にのほほんと時にしんみりとして話は続いていくのだ。こうやって書くとただの暇つぶしの癒し映画なのかと思われるかもしれないが、ぼくはこの映画の中に、癒しなんていう軽率なものよりももっと大きななにかを発見せざるを得ないと感じる。

 

 

・明かされない事情

まず面白いのは、中心となる3人の具体的な事情があまり明かされないことにある。さちえさんはなんでヘルシンキでわざわざ和食屋を経営しているのかよくわからないし特に具体的な説明もない。もっとわからないのはみどりさんだ。「世界地図を広げて指さしたところがフィンランドだったから来てやった。来てやらないわけにはいかなかった」と言ってそれで終わり。以降もなぜフィンランドに来てやらないわけにはいかなかったのか一向に説明されないままである。しかしさちえさんの食事を食べて涙を流すなど、何か悲しい重い事情があったであろうことだけは示唆されている。まさこさんだけは、両親の介護が終わったので来ちゃったとなんとなくの説明は成されているが、藁人形を使った経験を示唆するなどただののほほんとしたおばさん以上のなにかを感じさせるものがある。

この3人はそれぞれの事情を抱えてフィンランドで一緒に過ごし、それなりに親しくもなっているはずだけれども、お互いの具体的な話を聞き出そうとはしない。そしてそれは映画が終わるまで続くのだ。誰ひとり、お互いの事情や悲しみを、深くさぐってやろうとはしない。その人間関係にぼくは感動するのである。

 

・軽薄な人々

とかく人間というのは、他人のことを知ってやろう、さぐってやろうとして生きている者が多い。特に人生に慣れきって、新鮮な思いを感じることなく、ほどよく暇を感じている人間たちに限って、暇つぶしに他人のアラをさがしたり、不幸を覗き見してやろうと企んでいるものである。それゆえそのような種類の人間は悲しむ人を見ると、どうしたの話を聞いてあげるよ、話したら楽になるから話してごらんなさいなどと持ちかけたりするのである。

しかし浮世で見かけるこのような人間の様子は、深い悲しみやどうしようもない運命を担って生きているものからすれば、おそろしいくらいに軽率に見えるものだ。

 

・悲しいひと

話すだけで楽になるくらいならば深くは悲しまないし、言葉に出して話すことができるほどの軽々しい事情ならば、深い悲しみや運命に沈んだりしないのだ。悲しい人間はいつも、誰かに言ったところでどうしようもない運命を知りながら、誰にも言わずに、ひとりじっと耐えて人生の時を過ごしているのである。そのような必死に生きている悲しい人に向かって、話してごらんなどと優しいフリして持ちかけるのは、勘違いも甚だしいと言えよう。悲しい人は、誰にも言わずに悲しく、また誰にも言えないほど悲しいのだ。そしてそれを、悲しい人だけが知っている。悲しくない人間は、そのような感覚を知るよしもなく、悲しみの理由を尋ね歩く。

この映画はどうしようもない運命の悲しみに満ちている。ぼくには直感でそれが感じ取られた。悲しみを聞き合わない3人は、ちゃんと生きるということに必死に向き合って、悲しい人のことを知っているからこそ、尋ね合わずにそこにいるのだ。これはどうしようもない慈しみの映画である。

そして尋ね合わないのならばさほど仲良くなることもなく、そのまま通り過ぎてしまうのかと思いきや、その3人が共に暮らし協力していることにも感動する。3人ともどんなに仲良くなろうとも、決して丁寧語を使用し合うことをやめることなく、それは映画が終わるまで続いていく。本来ならばこれほど親しくなれたのならば、丁寧語など取っ払って話し始めるであろうに、適度な言語的距離を置きならがらお互い付き合っていく様もまた、悲しい人間であるゆえかもしれない。

 

 

・美しい抽象画の風景

具体的な事情を最後まで言わないというのもとても感動する。人々はとかくわかりやすいもの、具体的なものを求める傾向にある。ジブリに関してもインターネット上ではしつこく、ラピュタや魔女の宅急便などのような昔のわかりやすい話しがよかったなどとの書き込みが続いている。彼らは具体的な物事が判明して、なにもかも明白になって、あースッキリしたと思って映画を見終わりたいようなのだ。しかしぼくの感性から言わせれば、そのような物語は野暮というものである。

わからないからこそ美しいし、結局はわからないからこそ、何度もふりかえって眺めてしまうのだ。わかりきったものなどに、何の趣きがあるというのだろうか。わかりきって終了してしまったものとともに、人生を歩みたいなどと願うだろうか。それは死と同義ではあるまいか。わからないからこそ思考し、感受し、想像することができるのだ。創造主から与えられたものをただ享受するだけではなく、自分自身で思考し、感受し、想像する、そのように創造に自ら参加できる余地があることこそが素晴らしいことではないだろうか。創造主の感受性と、受け手の感受性が絡み合い、そこに誰にも真似できないひとつの感性がまた誕生する。それはまるで精子と卵が巡り会うような、生命の誕生にも似た感動を覚える。作品に余白があるからこそ、ぼくたちの魂はそこへと入り込み、さらなる創造を掻き立てられるのだ。

先ほども申し上げたが、この映画の中の人物には謎な部分が多い。どうして今のような状態になっているのか、どうやって今のような人間像に仕上がったのか、不明な部分が多すぎるのだ。まるで美しい抽象画を見ているような気持ちになる。そしてその不明こそが、ぼくたちに与えられた空白である。この空白を自分なりに埋めようとすることで、想像力が豊かになるし、思考力も働くし、それぞれの「かもめ食堂」が誕生する。ぼくたちはそれぞれじぶんの中に自分の創造上の「かもめ食堂」を持っており、そしてそれは誰ひとりとして同じものはないのである。具体的で野暮な説明くさい押し付けがましい映画であれば、このように水の波紋のような美しい広がりを見せることはないだろう。

 

 

・神聖な空白

ぼくは実際にヘルシンキのかもめ食堂のカフェに行き、そこには映画かもめ食堂の原作となる本が置かれていた。それを読んだことがないぼくはそれを手にとってみた。具体的なことがたくさん書かれていた。それぞれの人間の事情が事細かに描写されていたのだ。ぼくはさちえさんがどのような幼少時代を過ごし、どのような経緯でかもめ食堂を持つに至ったかまでを読み、そしてみどりさんの具体的な描写に入りかけたところで読むのをやめてしまった。

なんだかとても悲しい気分になってきたのだ。ぼくの中の抽象画であるところの映画かもめ食堂を、ありふれた具体的な風景画に決してしたくなかったのである。もちろん原作の本も面白いし、それが面白いからこそ映画にもなったのだろうけれど、秘密は秘密のままで、抽象画は抽象画のままで、ぼくの心の中に大切に宝石のように留めておこうと心に誓った。

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